良いヴァイオリンを確実に入手する秘訣




ヴァイオリンを買おうと思っている人へのアドバイスが Facebook に貯まりましたので、独立したファイルとして公開させていただきます。


なお、これは毎度のお約束ですが、私はアドバイスは出来ますが、責任までは持てません。とにかく多くの知識を仕入れた上で、自己責任でご購入ください。特に古い楽器の取引は、本当に奥深く不思議な世界なので、ドツボにハマる可能性も有る非常にリスキーな世界である事だけは間違い無く、場合によっては命に係わり、そのリスクの責任までは私は到底持てず、あくまでも「参考意見」としてお読みいただければ幸いです。また、ここで述べているのは手工品についてであり、工場などでの大量生産品は対象外とさせていただきます。

筆者:時津英裕(ヴァイオリニスト)

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2015年7月6日、ヴァイオリンに関する記事が Facebook に貯まり、日本最高権威の重鎮である徳永二男先生のお墨付きも得ましたので、ここでまとめさせていただきます。

いわゆる、木材の「虎目」、「杢」、「フレーム」について

いずれも意味は同じで、ヴァイオリンの表板以外に使われているメープル(楓)の木材に出る美しい縞模様の事です。ちなみに表板はスプルース(松)です。

この縞模様は、見る方向によって動き、虎の縞模様に似ているため、通称「虎目」、本来の日本名は「杢」(もく)、英語では「フレーム」(燃え上がるような光り方をするので、外国では「炎」に例えられた)と呼ばれます。この材料は、日本間の違い棚などでも使われています。今後は、国際語である「フレーム」で統一させていただきます。

フレームが出ない楓の中にも良い音の材料は有り、特に18世紀以前の名器に多いのですが、見栄えはしないものの音は素晴らしく、「Poor man's Stradivarious」と呼ばれる名器も多く、ザルツブルクでモーツァルトの生家に展示されている、モーツァルトが愛用していたというテストーレのビオラもこれで、良い音の楽器を比較的安く入手可能です。これらの楽器は、音だけに着目すれば、モダン以降の楽器よりも明らかに優れていますので、必ず選択肢に入れてください。私は楽器の見栄えにもこだわり、18世紀以前のフレームが出ている美しい名器は、値段が高すぎて買えず、19世紀最高の製作者であるプレッセンダにターゲットを絞って探してもらったわけです。ちなみに、19世紀のNo.2は、プレッセンダの弟子であるG.A.ロッカで、葉加瀬太郎の愛器として知られています。両者の最高のコピイストが20世紀のファニョーラで、これらは、余程の大鑑定家でも区別がつかない場合が多く、鑑定家泣かせとして知られており、私のプレッセンダも、一流鑑定書が付いてはいるものの、ロッカやファニョーラ作の可能性はゼロではありません。この辺のリスクは、ひたすら複数の専門家の先生に見せて、ご意見を仰ぐしか有りませんが、とにかく贋作ではなく音が良く、楽器の価格は上がり続けており、仮にファニョーラであっても、現在では元を取っています。ここで言う「贋作」とは、落ちこぼれ製作者によって、最初から騙す目的で作られた楽器を差します。真面目なコピイストの名誉のために書いておきますが、これらの真の名人たちは、師匠や原作者へのオマージュとしてラベルまでコピーしたか、自分のラベルを貼っていたにもかかわらず、後にラベルを貼りかえられたわけで、悪意は全く無く、落ちこぼれ贋作者とは、位置づけが全く異なります。悪質な贋作者は、楽器を古く見せるために、塩酸などの強い酸やヘマチン、重クロム酸カリなどの薬品を平気で使い、このような楽器は、まもなく音が死ぬか、楽器全体が真っ黒になる等、「てめえらには自尊心が有るのか!!!」と怒鳴りつけたくなりますが、このような悪質贋作者は今も潜伏していますので、厳重な注意が必要です。

トリノ派は、アマティに始まりチェルティで終わったクレモナ・スクール以降では最高の系列で、最初に居付いたG.B.グァダニーニ(最近になって、価値が億単位になりました)に始まり、クレモナ最後の名人とされるストリオーニに続いて弟子のプレッセンダに引き継がれ、G.A.ロッカ、ファニョーラに続く偉大な系列になりました。最初のトリノ派の名人は、ニコロ・アマティの弟子でアマティスタイルの楽器を作っていたジョフレード・カッパとされています。

ご参考になると思いますので、私がこのプレッセンダを入手するまでの経緯を書かせていただきます。

まず、予算を決めた上で、作者はプレッセンダのみの指名で、独立後(モダンイタリー時代が始まった1830年以降)の作品で、スタイルがストラディヴァリで(プレッセンダにはグァルネリ・デル・ジェスのスタイルのモデルも有ります)、表板の木目が密で、穴が開くなどの大事故が無い事、楓には美しいフレームが出ていて、裏板は柾目(スクエアカット)の一枚板、ニスの色はストラディヴァリのオールドイミテーションで、一流鑑定書が付いているものという条件で探してもらい、一年後に見つかりました。それまでに、数台のボツになった楽器が有ったのも事実です。

スタイルに関しては後述しますが、表板の木目が密な事は絶対条件で、木目の幅が広い楽器は買わないでください。大事故とは、踏み潰したりして、魂柱が表板を突き破って穴が開くなどで、これらも修復可能で音もよみがえりますが、さすがに価値は激減します。修理名人の中には、このような大事故でも、一見わからないように修理してしまう人もいますので、要注意です。その他の割れに関しては、現在は、完璧な表板のオールドやモダンは皆無に等しく、以前は「致命傷の残念物」とされていた魂柱割れやバスバー割れに関しても、修理技術の進歩が著しい現在、正しく修理されていれば、音や価値への影響は無いか、有ってもわずかですし、修理するとしても一生に一度で済みます。一流の修理人に頼む事が条件になりますが。修理技術がここまで発達した理由は、言うまでも無く、お客を「無傷だ」と騙す事が目的であり、このような修理職人は、スプルースの木目はもちろん、楓のフレームまでピッタリに合わせて、さらに高度な塗りで仕上げて、一見すると、継ぎ目が全く見えないように修理してしまいますので、このような職人をうまく利用すれば、自分の楽器の傷が消えて見栄を張れますが、騙された場合は悲惨な事になります。ちなみに私のプレッセンダは、当然ながら継ぎネックが施されているわけですが、これも一見すると、誰が作業したのかはわかりませんが(多分、メーニックの職人だと思われます)、ネックと渦巻の継ぎ目が全く見えずに驚きました。日本の衣類修復技術である「かけつぎ」(かけはぎ)に通じるものを感じます。ストラディヴァリの有名な「クレモネーゼ」の裏板には、ストラディヴァリ自身が行った修復痕が有りますが、もちろん、こんな細工は行われておらず、はっきりとわかります。この場合は、ストラディヴァリ自身の作業なので、価値は下がりません。なお反対に、新作、つまりコンテンポラリーでは、作者が自ら傷をつけたオールドイミテーションは別として、完全な無傷の楽器以外は買ってはいけません。ニスの色に関しては、プレッセンダには大きく分けて二種類あり、オールドイミテーションは、クレモナ黄金時代のコピーで、オリジナルは燃えるような真っ赤な色なのですが、私は前者を希望したのですが、入手した楽器は両者の中間のディープ・オレンジ・ブラウンで、珍しいのと美しいので妥協しました。色は顔料の違いだけで、色と音は無関係とされていますが、真っ赤なオリジナルの方が音が強くて弾きこなしが大変だと一般には言われています。裏板は、二枚板と一枚板の楽器が有りますが(これより枚数が多い楽器は敬遠してください)、音も価値も全く同じで差は無く、ストラディヴァリの最高傑作である「メシア」は二枚板ですが、個人的には一枚板の方が、断然かっこいいと思うので妥協しませんでした。ただ、注意点は、裏板の木取りには三種類あり、スクエアカット(柾目で、フレームは綺麗な縞模様)、スラブカット(板目で、フレームは雲のような不規則な模様)、ハーフスラブカット(両者の中間)が有り、柾目の一枚板は、それだけ太い木から木取りする必要が有るので少なく、だから、世界中の大量生産の楽器の殆どが二枚板なのであり、18世紀以前の一枚板の楽器には、スラブカットの楽器も多いのですが、スクエアカットに比べて明らかに音が弱く(柔らかい音として、これを好む人もいますが)、手もかかるので敬遠した方が無難です。私が妥協できるのはハーフスラブカットまでで、ましてや、見た経験は有りませんが、スラブカットの二枚板の楽器は、絶対に買ってはいけません。裏板の割れ傷に関しては、小さな割れまでが限界の妥協点です。裏板に大きな割れが有る楽器も、絶対に買ってはいけません。横板も同様です。また、裏板の魂柱割れは致命傷で、どんなに小さな割れでも絶対に買ってはいけません。一流鑑定書は、真贋の判断力が無い我々にとって、一種の保険ですが、一流ではない鑑定書は、一流鑑定書の100倍以上が現存していますので、厳重注意です。

大体こんな所ですが、スタイルについて説明させていただきます。まず、アマティ型ですが、クレモナ黄金時代の全ての名人の作風は、史上初の完成度の高いヴァイオリンを作った、アマティ一族三代目のニコロ・アマティに帰結し、ストラディヴァリも、ロングパターンなどの過渡期を経て、18世紀初頭に究極のスタイルを確立するまでは、アマティのスタイルで楽器を作っていました。ニコロ・アマティの楽器は、本当に上品でチャーミングかつ魅惑的な音色の楽器ですが、音量に限界が有るのと、ここで言う「アマティ型」とは、グラン・アマティ(大型のアマティ)と呼ばれるスタイルで、このスタイル以外の小ぶりなアマティ型の楽器は、必ず音量の不満につながりますので敬遠した方が無難です。しかし、現在でも優雅なアマティ型を好む製作者は少なからずいます。注意点は、当時フランスのメダール(ムダルと読む人もいます)一族がアマティに弟子入りしており、アマティとそっくりな楽器を大量に作り、殆どの楽器のラベルがアマティのラベルに張り替えられて、現在メダールのラベルが貼られた楽器は皆無で、これは、誰にも区別が付きませんので、音が良ければリスクを承知で買ってもいいですが、そうでなければ、見抜かれた場合1/10未満の価値に愕然とする羽目になります。また、悪質業者に捕まった場合、売る時に、仮に本物のアマティであっても「メダールである」と判定されて買いたたかれる可能性も有ります。少なくとも一流鑑定書が一枚も付いていないアマティは、買わない方が無難だと思います。アマティ型の音量の弱点を克服したのがストラディヴァリとグァルネリ・デル・ジェスですが、両者はスタイルから人生まで、あらゆる意味で対照的で、ストラディヴァリのスタイルが、あらゆる意味で完璧かつ普遍的で美しく、多くの模倣者を生んだ上に、現在でも大量生産の楽器の99%がストラディヴァリのスタイルであるのに対し、グァルネリ・デル・ジェスは、あらゆる意味で個性的で破天荒なデザインで、大量生産は不可能であり、模倣者は沢山いますが、はっきり言って、このスタイルを使いこなせるのは、元祖である超天才グァルネリ・デル・ジェスしかいないと思われます。私の生涯最高の楽器体験は、25年以上昔に出田さんに弾かせてもらった、完璧な保存状態の、当時五億円のグァルネリ・デル・ジェスですが、チューニングしただけで足の先までしびれてしまい、曲を弾きだすと止まらなくなり、出田さんは二時間以上、私が疲れて弾けなくなるまでこの名器を弾かせてくださり、じっと黙って聴いておられました。この楽器の価値が現在いくらなのかは想像不可能です。最近、あるオークションで、ストラディヴァリの最高価格記録が12億円に塗り替えられましたが、このグァルネリ・デル・ジェスは、恐らくこれ以上だと思われます。しかし、ストラディヴァリが、生前から名声を確立して、大金持ちとして大長寿の生涯を全うしたのに対し、グァルネリ・デル・ジェスの個性的なスタイルは、当時誰からも認められず、変人だったために、クレモナでも仲間はずれにされて、若くして野獣のような死に方をしており、彼の真価が認められるのは、19世紀に、彼の最高傑作である「カノン」をパガニーニが愛用するまで、長年の月日を要しました。最後にシュタイナー型について。ヤコブ・シュタイナーは、ドイツ(チロル)の天才製作者で、スタイルは前三者と全く異なり、ドイツの職人魂を感じさせる精巧な設計とデザインで、一目でわかります。しかし、美しいニスがアマティと酷似しており、アマティの薫陶を受けたのではないかという説が有り、現在は、この説が有力です。18世紀までは「世界最高の楽器」とされており、当時の値段はストラディヴァリの三倍以上で、当時はイタリアでもシュタイナーのスタイルで楽器を作る人もいましたが、やはり音量に限界が有り、値段も頭打ちになったものの、現在でもドイツやオーストリアでは神のように尊敬されており、一度はシュタイナーのスタイルにハマってしまう製作者が多いのも事実です。世界一のオーケストラであるウィーン・フィルは、楽団が楽器を所有しており、団員に貸し出しているのですが、その殆どは、ガイセンホフというウィーンの製作者の楽器で、スタイルはもちろんシュタイナーで、価値もストラディヴァリの1/100ですが、これがウィーン・フィルのシルキーなサウンドの秘密である事は間違い無く、このスタイルは、テレビなどでもはっきりわかります。

以上、スタイルについて述べましたが、私の価値観として、少なくとも、これら四つのスタイルと、これらのスタイルからどんな音が出るのかを知った上で、自分の求める音が見えていない人は、悪質業者にとんでもない楽器を高値でつかまされる可能性が高く、オールドやモダンの楽器を買う資格は無いと断言できますので、大火傷を負わないためにも、勉強した上で挑戦してください。私のこれらの知識は全て、出田さんを始めとする商人や職人の皆様に直接教わった知識であり、パブリックな場所では書けない裏情報も有りますが、これらを知るには、一流の商人や職人の方と人間関係を築く以外に手段が有りません。偽物ばかりの名器の写真や伝説めいた神話ばかりが書かれた書物は、全く役に立ちませんので、実用的かつ実践的な知識を身に着けられる事を、強くお勧めいたします。


今日、ある真面目で気難しい職人さんの説得のために、東京でお世話になっている楽器店を訪れたのだが、話しているうちに、本当にお世話になった九州の出田さんとの沢山の思い出が頭をよぎり、文章にまとめて Facebook で公開したところ、大評判になっていますので、ここでまとめさせていただきます。

昨日は楽器屋さんに行き、気難しい職人さんの説得に始まり、社長さんと三人で楽器談義で盛り上がったのだが、この二人のプロに共通するのは、九州の名職人&名物商人であった、故・出田詩郎(いずたしろう)さんを、神のように尊敬しておられるという事で、思い出話をしながら、初めて会った中学生の頃から亡くなられるまで続いた出田さんとの貴重な思い出が頭をよぎり、何とも懐かしい思いになりましたので、ここでまとめさせていただきます。超長文ですが、何卒お読みください。m(_ _)m

この楽器店の社長さんが1984年に店を出す時に、出田さんが上京されるたびに、食事を共にし、社長さんにリペアから商売のノウハウまで、全てを出田さんは教えたらしい。社長さんによると、「あの時の出田さんのアドバイスが無かったら、今の当社は無かった」との事で、大変な変人だった出田さんだが、東京で悪く言う人が一人もいない。現在では神格化までされている存在になっているのである。

そんな出田さんとの最初の出会いは中学生の頃、1976年頃か。岸辺百百雄先生が電話を入れてくれていて、出田さんはビルの外で待っておられたのだが、こちらから初対面の挨拶をしても返事が無い。一緒にエレベーターに乗っても一言の会話も無く、もちろん愛想笑いも無い。狭い部屋に入ると、足の踏み場も無い程の楽器の山。「何だこれは!」と思いつつ、弓の毛替えを依頼したところ、僕の弓を見ながら、「こりゃ酷い!!誰だこの仕事をしたのは!!!フニャフニャじゃないか!!!!」と、本当にフニャフニャの毛の取り付けを動かしながら、僕は、いきなりの大声で驚き、「笠川貞道さん(鈴木政吉、宮本金八と共に、日本のヴァイオリン製作黎明期のベストスリーの一人)の息子さんですが」と答えると、「う~ん、笠川の親父が、こんな事を教えるはずが無いんだけどなあ」と呆れておられた。「所要時間40分」という返事を得て、食事に出かけて戻ったのだが...

工房に戻ったのだが、出田さんは、全く仕事に手を付けていなかったのである。呆れて言葉を失う僕を捕まえて、何時間も続く出田さんの楽器に関する講釈が始まり、ようやく仕事にかかられ、ピッタリ40分で完了。仕事は完璧だったが、本当にやりきれない、心身ともにクタクタになる初対面であった。

その後も、どうも僕の人格は、この種の職人さんに目を付けられる人格だったようで、会うたびに、楽器の話や取引の表から裏までを何時間も聴かされて、人生の先輩でもあり勉強にもなるから、一生懸命に聴いていたのだが、正直言って苦痛であった。他にも色々な思い出が有るが、これらの積み重ねが後に、思わぬ形で帰って来るのである。

最初の恩恵は、僕が高校二年の頃、当時、音楽と学校の勉学の両立で悩んでおり、ノイローゼだった僕は、あれこれと理由を付けて学校をサボり、福岡市に出かけて出田さんの工房に行き、話を聴いてあげて練習をするという生活が定着していた。変人ではあるが、付き合うほど味のある人で、もはや抵抗感は全く無かった。それで当時は、ピラストロのガット弦が品薄で、どこの店に行ってもケースは空っぽ。それで困った事に、全日本学生音楽コンクール本選の前日に、最後の一本のA線のアルミが剥がれてしまったのである。それに、現在主流のナイロン弦と異なり、ガット弦の新品を前日に張っても、翌日までは間に合わず、伸び続けて音程がどんどん下がるので使い物にならない。途方に暮れて出田さんに相談すると、「な~に、そんな事は訳は無い」と言われて、自分が所有している楽器からA線を外し、「中古だから代金は要らない」と、タダでくれたのである。既に張っていた弦なので伸び切っており、翌日の本選で、僕は一位を取る事が出来たのである。

その後、出田さんの話は、楽器論から、当時入居されていたビルの一階の事務所二部屋を、壁をぶち抜いてショールームと大工房にして、九州最大のお店を開く夢の話に変わり、これが実現して、現在も続く、「イズタ・バイオリン」になったのである。

その後、僕は桐朋に進学してプレッセンダとトウルテを入手したのだが、東京で楽器の調子が悪くなり、困って出田さんに電話で相談したのだが、出田さんによると、「東京だったら、**の*君が一番だ!!」との事なのだが、出田さんによると、「ただあそこはね、あそこで楽器を買った人じゃないと受け付けてくれないんだよ」との事。「そこを何とかなりませんか?」と言うと、「わかった!電話を入れておくから!!」と言われ、出田さんは、出田さんに頭が上がらない社長さんに電話をかけて、「九州で唯一、名器の本領発揮が出来る人だからよろしく」と紹介してくれたらしい。それでめでたくアポが取れて、お店に行ってドビュッシーのソナタを弾いたところ、社長さんと職人さんがびっくり仰天されて、職人さんの調整で楽器がよみがえり、アドバイスまでもらって、この付き合いは、今でも続いているのである。このお店は、過去にも書いたが当時、江藤俊哉先生御用達だった店であり、江藤先生が最後まで愛用したトウルテの弓も、ここから出たものである。

その後、九州に帰るたびに出田さんに毛替えや楽器の調整をお願いしていたのだが、どうしても、僕の楽器に付いている小物四点セットが気に入らないので、出田さんは、この種の小物にこだわる人で、いつも豊富な在庫を持っておられたので、世界最高のクロウソンのツゲのセットを注文したのだが、運悪く品切れとの事で、発注を依頼したのだが、出田さんが、「時津君ちょっと待って!」と言われて、「これなら有るけど」と、奥から出してこられたセットを見て仰天した。

糸巻きとテールピースに物凄く美しい彫刻が施されたツゲのセットだったのである。出田さんによると、名前を思い出せないのだが、「フランスの***という有名な彫刻家が、年にワンセットしか作らない特製のセットで、君の楽器なら負けないと思うよ」との事だが、問題は値段である。クロウソンのセットは、当時二十万円ほど、それでこの彫刻となると、最低でも五十万、場合によっては百万円を超える可能性も有り、これではとても僕の財布からは出ない。それで恐る恐る出田さんに、「おいくらでしょうか?」と尋ねると、出田さんは、何度尋ねても、「時津さんからは、お金を取れない!!」と言うばかりで、値段を言わないのである。仕方なく、当時の僕に出せる最高金額で、五十万の数字を入れ替えて十五万円を支払い、出田さんは、フィッティング代も取らず、僕は、十五万円というウソみたいな値段で、このセットを手に入れたのである。

その後も出田さんには、ストラディヴァリ、グァルネリ・デル・ジェスをはじめとするイタリアの名器の数々を弾かせてもらい、これらの体験は、まさに「僕の一生の宝」と言うべき知識として、頭の中に蓄積されている。

出田さんは、引き際も見事であった。独身一人暮らしの悲しさで、部屋の棚から物を取ろうとして台から落ちて腰を痛められ、リペアなどの修理調整が出来なくなってしまわれて、あっという間に出田さんは、社長の座を、最初に雇った職員で、現社長である谷口さんに譲られて、会長に退かれたのである。

そして後に、僕の東京の家に、谷口社長から電話がかかってきて、「出田会長が危篤状態になった」との事で、その足で飛行機で九州に飛び、出田さんが、「名器の運搬にはこれしか無い」と、事あるごとに絶賛されていたベンツに乗り、No.2の田中さんの運転で三人で病院に向かい、出田さんに最後のお別れをした。既にモルヒネが入っており、会話は出来なかったが、僕は谷口社長に感謝をしつつ、東京にとんぼ返りした。その数日後に、谷口社長から、「亡くなられました」という電話をもらい、僕は、最後の感謝の気持ちを込めて、出来る限りの心づくしを行った。

出田さんと最後に話をしたのは、1999年に母が急死し、無我夢中で葬式までを仕切った後で、実家にいるだけでもつらいのでイズタ・バイオリンに向かい、出田さんと夜遅くまで楽器談義に明け暮れ、福岡発の優良企業であるロイヤルホストの、福岡市にしか無い超高級ロイヤルで、夕食をおごってもらったのが最後である。変人で色々と難しい人だったが、根は本当に優しい人であった。この超高級ロイヤルも今は無く、出田さんと共に、九州での貴重な思い出である。

その後も僕は、イズタ・バイオリンのホームページのリンク集では、出田さんが最も可愛がっていた顧客として、個人のページとしては永久欠番のトップリンクにしていただいている等、今でもVIP扱いを受けており、先日の話を書いて、終わりにしたい。

出田さんの心づくしで入手した小物のセットだが、あご当てだけは僕のあごに合わなかったため、クロウソンのグァルネリタイプのツゲを入手したのだが、当時のクロウソンのあご当ては、ネジの穴が小さく、普通のネジ回しが入らない。クロウソンから専用のネジ回しが売られていたのだが、これは焼き入れが無いに等しく、すぐに折れてしまう。というわけで、色々なショップでは、千枚通しを加工するなど、苦肉の策で回されていたのだが、「困った時のイズタ・バイオリン頼み」というわけで相談をすると、やはり「無い」との事で途方に暮れていた。ところが数日後にイズタバイオリンから電話で、「うちの職人が作ったねじ回しが有るので、『あげます!!』」との事、お言葉に甘えたが、電工用の調整用精密ドライバーを加工したもので、見れば見る程よく出来ており、僕は、いい仕事にはお金を払う主義なので、イズタ・バイオリンに電話をかけたのだが、「あげます!!」という女性職員と押し問答になり、最後に、「千円でもいいから払わせてくれ!!!」と言ったのだが、職員が、「社長から、『時津さんからはお金を取るな!!』と言われていますので、『絶対に受け取れません!!!!!』」と言われて、こうなると、こちらが折れるしか無い。というわけで、一生ものの最高のネジ回しをタダで入手する事になったのである。似たような事は他にも有り、どう考えても、出田さんが、「時津からは金を取るな」と遺言を残していたとしか思えない。

物凄い長文になりましたが、相手の人格と技量を見抜いたら、一生懸命に付き合いを続けながら人間関係を築き上げる事で、後に必ず恩恵を受ける事が出来るという典型的な話なので、この場を借りて、書かせていただきました。


マウリツィオ・リボーニデザインのヴァイオリンケース「UNOEOTTO」について

このケースが最初に発売された時に、ハイセンスなデザインの上に、構造的にも、楽器に優しい木製の上に軽く、文句なしなので、一目ぼれして買ってしまったのだが、ちなみに僕が買った値段は、お店へのコネで、オマケが沢山ついて、当時の相場であった58800円よりも安い5万8千円だったのだが、このケースは世界的に人気が有るらしく、お店にも滅多に入荷せず、現在の相場は7万円台後半らしい。

ただ、このケースには二つ問題が有る。

一つ目は、表面的な話だが、値段が値段だけに(安い。高級ケースは十万円以上が普通)、ジッパーやネジなどの金具が「銀色」で、せっかくハイセンスなデザインなのにもったいない。というわけで東急ハンズに行き、「めっき工房」というセット(1万円ほど)を買ってきて、全ての金具とネジを自分で金メッキし、当たり前だが、金具が全て「やまぶき色」になり、見栄えが格段に向上した。「めっき工房」は、別に東急ハンズに行かなくても、ネット通販で簡単に入手可能である。

もう一つの欠点は重要で、ふたを閉じた時の止め金具が無く、ジッパーだけであり、楽器が高額だと、飛行機に乗る時に客室に持ち込めないと、生きた心地がしない。過去にも書いたが、僕の場合、現在の航空料金は安いので、倍額払って二席取り、客室に持ち込んでいる。

これについて、日本一の弦楽器ディーラーの社長さんに教えてもらったのだが、「ケースにカギが付いていても『オモチャ』なので、全く信頼できない。完全防備するには、最近は、スーツケースにかけるベルトでカギが付いているものが有るので、これでぐるぐる巻きにしてカギをかけるしか無い」との事。

弦楽器店の工房に入り浸っていた僕の経験だが、時々、千万単位以上の楽器の写真入りの張り紙で、「楽器が盗まれました。製作者は****です。持ち込まれたらご連絡ください」と書かれており、連絡先が書いてあるのだが、見つかる事はまず無い。この張り紙が出た時点で、楽器は既に海外に飛ばされていると思われる。

弦楽器は「金」と並んでインフレに強く、楽器専門の窃盗シンジケートも多いので、特に日本人は警戒心が弱く狙われやすいので、皆様も、くれぐれもご注意ください。

UNOEOTTOのケースにご興味が有る方は、この世界は色々と難しい問題も有りますのでシェアできず、キーワード、「ヴァイオリン UNOEOTTO」などのキーワードで検索してください。少なくとも現在、「即納」で入手する事は不可能でしょうね。


世界最高のヴァイオリンケース(良いケースの選び方)

良いヴァイオリンが手に入ったら、ケースや周辺部品にも手抜きをせず、くれぐれも大切に、楽器と付き合ってください。特に、古くて良い楽器は「歴史的文化遺産」である事を、お忘れなく。

伝説のゴージ(旧ヒル、イギリス製)が死んで会社が消滅し、入手不可能になり、ケース選びで悩んでおられる方も多いと思う。僕も、「買い替え不可能」という事で、20年以上愛用していたゴージのケースを引退させた上で、新しいケースを探したのだが、これがなかなか難しい。

なお、ゴージのケース引退に当たって、あゆる手段で清掃を行ったところ、完全な新品同様になった。改めて「伝説」になっているゴージの凄さを再認識させられた。

現在の、世界最高価格のケースのブランドはムサフィアだが、金属製の湿度計が外れて楽器に傷が付いたり、カギをかけたらカギが折れて開けられなくなり、仕方なくカギを破壊して楽器を取り出し、ケースはゴミ捨て場行きになる等々、事故連発で、個人的には全くお薦めできない。

それで、某ヴァイオリンディーラーの社長さんが、生前の江藤俊哉先生に希望を聴いて、日本のアルファ・ケースに作らせた素晴らしいケースが有る。

基本的にはゴージのコピーだが、至る所に江藤先生のアイデアが盛り込まれており、それにゴージよりも軽く、現在世界最高のケースなのではないかと思う。

それで、先日の訪米でお世話になった大泉さんにプレゼントするべく、ディーラーを訪れたところ、在庫の残りが二個だけで、一個をプレゼントしたわけだが、現在残っている在庫はレッドしか無い。社長さんが再びアルファに作らせる可能性はゼロではないが。

とにかく、日本人のクラフトマンシップを感じさせる素晴らしいケースであり、世界最高だと思う。

というわけで、ディーラーを紹介する事は「極秘!」という事で紹介できないのだが、ご興味が有る方は、自力でお探しください。

ただし、高価な楽器や弓を、本気で買いたいと思っている方には、予算を聞いた上で、ご希望の楽器や弓が有るかどうかを社長さんに打診した上で、紹介する事は可能です。なお、小物やリペアだけでの紹介はできません。楽器購入が前提です。

一つだけヒント。日本には、「弓の毛替え30分」とか、どんな修理でも翌日には出来上がっているなど、無責任なリペアを行う悪質店も多いが、ここは、弓の毛替えでも二日、修理調整でも一週間以上であり、気が短い人にはお薦めできません。しかし、江藤俊哉先生の御用達だった、東京で一番の職人の方がいらっしゃり、社長さんも、「ヴァイオリンオタク」の人なので、あなたの実力と人格を社長さんに認めてもらえれば、「最高の仕事」を行ってくれる事だけは、私が保証します。

私は、このディーラーで高額な買い物をした事が無く、イズタ・バイオリンの、故・出田詩郎元社長の特別推薦で、25年以上、懇意にしてもらっています。

ただ、社長さんが、購入希望者の実力や人格を、どのように判断されるかはわからないのと、これは私の信用問題にも影響しますので、これ以上の保証は出来かねます。まずは僕に、自己PRしてください。

なお、最近のトレンドである、全く湿気を通さないカーボンファイバーやポリカーボネート、軽いだけが取り柄の発泡スチロール製のケースは論外なので、楽器を大切にしたければ、木枠の角形で品質が良いケースをお探しください。

ひょうたん型や三角型は個人的に嫌いで、全く対象外です。ケースは角形に限ります。

この特製ケースでなくても、アルファ・ケースは品質が最高で楽器にも優しい上に、コストパフォーマンスも抜群ですので、私のイチオシです。最も推薦できるのは、木枠で無駄が無い角形の#380です。アルファには、上位の#500も有りますが、開け閉めのたびにホックを5個も付けたり外したりする必要が有り、面倒極まりなく、個人的には、お薦めできません。

アマ、プロを問わず、皆様の有意義なヴァイオリン・ライフを、心より、お祈り致します。


新作の楽器(ヴァイオリン)の弾きこみについてと、楽器選びについてまとめ

17世紀から18世紀にかけて、イタリアのクレモナという町に、天才的なヴァイオリン製作者が多数輩出され、特に、アントニオ・ストラディヴァリとグァルネリ・デル・ジェスが東西の横綱なのだが、まさに「ヴァイオリン・ルネッサンス」と呼ぶべき天才的な製作者たちがクレモナで集中的に誕生した。特に、ストラドとデル・ジェスは、完全に別格のヴァイオリンの王者だが、彼らをはじめとする多くの名人たちを輩出した師匠であるニコロ・アマティ(史上初の完成度が高いヴァイオリンを作った人)についても、ご記憶いただきたい。

また、当時はドイツ(チロル)の天才製作者であるヤコブ・シュタイナーが「最高の楽器」とされており、価格もストラディヴァリの三倍以上で、シュタイナーのスタイルはクレモナの名器とは全く異なり、当時はイタリアでもシュタイナーのスタイルで製作する作者も少なくなく、大ざっぱに四つのスタイル(アマティ型、ストラディヴァリ型、グァルネリ・デル・ジェス型、シュタイナー型)くらいは頭に入れておかないと、とてもじゃないが名器に有りつけません。

クレモナ黄金時代は、18世紀最後の名人であるストリオーニとチェルティで終焉を迎え、奇跡的なヴァイオリン・ルネッサンスは、これで終わった。その後は、最初のモダンイタリーの名人であるプレッセンダとデスピーヌによって(プレッセンダはストリオーニの弟子で、デスピーヌはチェルティの弟子)、新しい時代が始まるわけだが、ストラディヴァリとグァルネリ・デル・ジェスでヴァイオリンの進化は止まっており、改良の余地も無く、両者のコピーを作るしか手段が無い事は事実で、様々な新しいアイデアを出した人もいるが、ストラドとデル・ジェスを超える楽器は出来なかった。今後の熟成によって、どんな時代が訪れるかは不明だが、前記東西横綱を超えるかどうかは全く未知数である。モダンイタリーの時代は、第二次大戦終了まで続く事になります。

そして、現在も続いているコンテンポラリー(ニューイタリー)の時代になり、やはり、クレモナが「ヴァイオリンの聖地」である事は間違い無く、世界中から優れた製作者たちが集結しており、現在、「第二次クレモナ黄金時代」と呼べる状況になっています。まず、製作技術が極限まで進化し、作りが良く完成度の高い楽器が百万円単位の価格で入手可能です。変な正体不明の古い楽器を買うよりも、製作者がはっきりしている新作を買う方が、絶対に良い事だけは、間違い有りません。東西横綱は、ビソロッティとモラッシです。僕は、プレッセンダと同じ条件の、素晴らしく美しい2005年製のF・ビソロッティを購入しました。

ところが、出来たての楽器なので、当然音が固くて弾きにくく、「しばらく弾けばいい音になるだろう」と思って頑張って弾いていたのだが、一か月を過ぎても全く変わらず、気力が消失して、「これはもうダメだ」と、ケースに放り込んで8年間全く弾きませんでした。それで、某音大の作曲科教授の先生で、やたら弦楽器に興味が有る先生から、「名器がどんなものか知りたいから見せてくれ」と頼まれ、プレッセンダとビソロッティを持参。プレッセンダからいい音が出るのは当たり前。問題はビソロッティで、8年ぶりにケースから取り出すと、まず、「え!?軽い!!」。これが第一感。塗りたてでギラギラしていたニスも、上品な艶に変わっている。いい音が出そうな気がして弾いてみると、「音が熟成している!!??...」。この音は、余程の仕事でない限り、プレッセンダを温存できるレベルである。

というわけで、江藤先生御用達店のN社長にこの話をすると、「よく有る話」との事で、「良い楽器であれば、全く弾かなくても音が熟成する可能性あり」という新しい経験の上で、最後に皆様にアドバイス。

オールドやモダンのイタリアの楽器を買うには、千万単位の出費をする覚悟が必要ですが、正体不明で変に安いオールドやモダンを買うくらいなら、作りが良いニューイタリーを百万単位で買う方が絶対にベターであり、偽物の心配も無く、ただし、最大10年は辛抱が必要かもしれませんが、「作りが良い楽器」であれば、必ず良い音の楽器に変身しますので、正体不明の変に安いモダンやオールドを買うよりも、「絶対に確実!!!」と断言でき、最初は音が固いのは仕方が無いのですが、選択肢から外さない事を、強く推奨させていただきます。


楽器(ヴァイオリン)の選び方について

ここで楽器選びの骨子について、簡単にまとめておきます。まず、自分の演奏技術と人を見る目を磨いてください。真の商人の人たちは、下手な人や人格に問題が有る人は、まともに相手にしてくれず、その上で、「金だけは持っていて見栄っ張り」みたいな人たちは、悪質業者に悪い楽器をボッタクリ価格でつかまされるのがオチなので、「自分に相応な楽器のランク」を、まず冷静に考えて決めてください。真面目で謙虚であれば、楽器商の人たちも、あなたに相応な楽器の予算などを、親切に教えてくれます。僕も、自分の腕前には誇りを持っていますが、何億円もするストラディヴァリやグァルネリ・デル・ジェスは、自分には分不相応だと思っています。

その上で、信頼できる商人や職人の方と人間関係を築いた上で、楽器についての基本的な知識を身に着けてください。「良い楽器はどんな楽器なのか」を知る事が基本中の基本で、これは、人格が「本物」の、まともな商人や職人の方々に、直接教わるしか手段が有りません。また、「良い音とはどんな音なのか」を知った上で、「自分が欲しい楽器の音色」を決めて、信頼できる楽器商の人たちに、まず予算と欲しい音色等々を指定して探してもらってください。

楽器が見つかったら、作りの良し悪しや健康状態、スタイルが自分の好みに合う事をチェックした上で、OKであれば、少なくとも10日は借りて弾いてみて、楽器の音色と音量を判断し、気に入ったら買う事になりますが、「本物の10倍は偽物が有る」という恐ろしい世界なので、真贋の判定には細心の注意を払ってください。こればかりは、名作から駄作まで、おびただしい数の楽器を見てきた、誠実で真面目な専門家の人に頼るしか有りません。このようなスペシャリストの人たちは、どんな楽器で誰のラベルが貼られていても、真の製作者と価値(価格)を瞬時に判定する事が出来て、このような事は、我々末端の奏者には絶対に不可能で、繰り返しますが、自分の腕前や人格を磨いた上で、「真の商人や職人」の人と信頼関係と人間関係を築く以外に手段が有りません。

良いヴァイオリンは非常に高価ですので、くれぐれも慎重にお選びください。また、どんな分野でも同じですが、楽器についても「表と裏」が必ず有り、場合によっては命に係わりますので、とにかくご注意ください。

「楽器選びの基本中の基本」は、こんな所です。皆様が良い楽器に巡り会われる事を、心よりお祈り致します。


楽器(ヴァイオリン)選びについて

僕が愛用しているG・F・プレッセンダが作ったヴァイオリンは、1831年に作られたもので、プレッセンダ全盛期の名作で、日本で最も有名な鑑定家の方に見せたところ、「間違いなく本物で、今まで多くのプレッセンダを見てきたが、君の楽器がNo.1だ!」と言われた。

本当は、18世紀のオールドイタリーの名器が欲しかったのだが、美しい楓のフレーム(燃え上がるような縞模様)が出ている楽器は値段が高すぎて買えず(フレームが無い楓の楽器でもよければ、良い音の楽器は沢山ありますので、オールドの魅力的な音を、比較的安く入手可能です)、19世紀のモダンイタリーで最高の製作者であるプレッセンダにターゲットを絞り、「ストラディヴァリのスタイルで、表板の木目が密で、楓に美しいフレームが出ていて、裏板は柾目の一枚板」(裏板には一枚板と二枚板が有り、音とは無関係で価値も変わらないが、一枚板の方が絶対にかっこいい(と個人的に思います)。ただ一枚板でも、木取りしやすい板目のオールドも多く、これは手がかかるので敬遠した方が無難。先日初めてテレビにカラーで映った、世界最高のヴァイオリンであるストラディヴァリの「メシア」の裏板が二枚板だったのには正直に言ってがっかりした。また、二枚板なのに板目の楽器は、買わない方がいいと思います)、という条件で、信頼関係がある楽器商の方に探してもらい、一年後に見つかった。

間違いなく音が良く、世界最高権威の一つである鑑定書も付いていて、しかも非常に美しいので購入したのだが、これからが大変だった。ちなみに二号のF・ビソロッティ(2005年製、新作ニューイタリーで最高の製作者)も、同じ条件で探してもらった楽器である。詳細は、いずれ加筆します。


古い楽器に付きまとう不思議な現象

工場などでの大量生産の楽器は別として、手工品の楽器には、作者の魂や、今まで何人のユーザーの手を経てきたのかは不明だが、過去のユーザー達の悲喜こもごもの人生が取りついている事が多く、古い楽器のユーザーの皆様は、多かれ少なかれ不思議な経験をお持ちだと思う。僕のプレッセンダも例外ではなく、買った当初は非常に気まぐれで、リハーサルではよく鳴るが、肝心の本番では全く鳴らないなど、本当に「翻弄される」とはこのような事なのではないかと、今では思う。他にも、弾いていると変な声が聴こえて寒気がするなど不思議な現象の連発で、どうしても思ったような音が出てくれないのである。ヴァイオリンは本当に不思議な楽器で、科学だけでは解明不可能としか言いようが無い。最悪の場合は、弾いた人が次々に怪死したという呪われた楽器も現存している(ノルウェーの博物館に有り、もちろん誰も弾こうとしないし、手を触れようともしない)。

僕のプレッセンダの、ある種の「呪い」を解いてくれた人が、過去に書いた、江藤俊哉先生御用達だった職人の方である。この間は十年以上、苦しみの連続だった。今ではいつも、面白いようにいい音が出る。ようやくプレッセンダの名作が、僕の願いを叶えてくれるようになった。ようやく名器を手なずけることが出来て、昔は苦痛だったプレッセンダを弾く事が、今では愉しみになっている。しかし、これも運命的な人生経験だが、肝心な時に鳴ってくれずに大切な仕事を失うなど、本当に苦労したが、まだ人生はたっぷりと残っている(と思う)ので、生きている限り、19世紀最高の名器プレッセンダのサウンドを楽しみたいし、何億円もするストラドやデル・ジェスの必要性は全く感じない。


ヴァイオリンと湿気の関係とケース選びについて

どんな名器でも、正しく管理しないと本領を発揮してくれず、「宝の持ち腐れ」になります。ここでは、湿気との付き合い方とケースの選び方について述べさせていただきます。

まず湿気ですが、湿度が高いと楽器が鳴らないだけですが、低すぎると、最悪の場合、楽器に割れやはがれが生じますので、特に、車に乗ろうとして静電気ショックを受けるような季節は、ダンピット(加湿器)を使う必要が有ります。湿度30~40%を基準に、楽器をベストコンディションに保つ事が、「生き物」である楽器と付き合うコツだと思います。

次にケースについて。最近では、カーボンファイバーやポリカーボネート製のケースがトレンドのようですが、これらは湿気を全く通さないので、ベストのケースは「木製」の「角形」に限ります。軽いだけが取り柄の発泡スチロール製のケースは論外で、圧力がかかると潰れてしまい、楽器も巻き添えになります。最悪の場合、魂柱が表板を突き破り、修理不可能ではありませんが、価値は激減します。

私の愛用ケースは二つで、いずれも木製で角形の、一つ目は、マウリツィオ・リボーニがデザインしたUNOEOTTO。スタイリッシュなデザインで、木製なのに軽くて、日本で気軽に使うには最高のケースだと思います。ただ、ロック機構が無くカギも無いので、楽器を海外に持ち出す時には使いません。また、現在世界で最も高価なムサフィアは、ごてごてと色々な部品が付いていますが、個人的に、全くお薦めできません。

私のもう一つの愛用ケースは、江藤俊哉先生御用達だったお店の社長さんのN氏が、生前の江藤先生に希望を聞いて、日本のアルファ・ケースに作らせた特製ケースで、これ以上のケースは考えられず、もったいないので、海外に楽器を持ち出す時以外は温存させています。ただ、現在も入手可能かは不明で、社長さんに迷惑がかかりますので、お店もお教えできません。

アルファ・ケースは、間違い無く日本で最高のケースメーカーであり、史上最高で伝説のゴージ(旧ヒル)のケースが、ゴージさんが死んで会社が消滅し、現在は入手不可能になりましたので、長年愛用したゴージは引退させて(20年以上愛用していましたが、汚れを落とすと「新品同様!!」になりました。もちろん一度の故障も無く、恐るべき高品質です)、タナボタで江藤先生が監修した特製のアルファ・ケースが手に入る事になりました。コストパフォーマンスが極めて高いのと、「ケースの王道」と言うべきトラディショナルかつ正攻法で真面目な設計で、品質はもちろん抜群です。ひょっとすると、現在世界最高のケースメーカーかもしれません。私のお勧めは、木製角型の#380です。

なお、ひょうたん型や三角型のケースは、個人的に、全くお薦めできません。

とにかく、どんな名器でも、良いケースに入れて正しく管理しないと「宝の持ち腐れ」になりますので、くれぐれも手を抜かない事をお勧めいたします。これをお読みの全ての皆様が、最良のコンディションで、楽器の本領を発揮させられる事を願ってやみません。


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